イスラム学者も認める「ハラールなアルコール」とは?
こんにちは、Salam Groovy Japan編集部・マレーシア出身のイマンです。
今回は、ハラールの面におけるアルコール使用についてご説明します。
ハラール(イスラム法で合法的)といえば、「アルコール」は一番最初に思いつくハラーム(イスラム法で禁忌)成分の一つだと思う人が少なくないでしょう。日本では、アルコール含有製品が当たり前のように出回っており、アルコール使用を完全に排除するのは、難しい部分もあるかもしれません。
ところで、「ムスリムにも使えるアルコール」というものがあるのをご存じですか?
ハラールにおけるアルコール使用の理解を深めるために、まずはアルコール自体についてご説明します。
「アルコール」とは何か?
「アルコール」(英語:Alcohol)という言葉自体は、よく「酒」「アルコール飲料」すなわち英語の「リカー(liquor)」と混同されることがあります。しかし、化学的な観点から見ると、「アルコール」は、酒類にもよく含まれるエタノールという成分だけに限りません。
なお、今回のブログでは、「アルコール」と「アルコール飲料」を別のものとして扱っていきます。
聖なるコーラン(イスラム教の聖典)の中では、心を酔わせる・摂取した人の心や行動のコントロールを失わせる物質全般をアラビア語の「Khamr」(ハムル)と指し、使用・消費禁止しています。
なぜイスラム教で「ハムル」は禁止されているのか?
あなたがた信仰する者よ、誠に酒と賭矢、偶像と占い矢は、忌み嫌われる悪魔の業である。これを避けなさい。恐らくあなたがたは成功するであろう。
聖コーラン 第5章「食卓章」90節
上記の一節に示されているよう、また多くのイスラム学者たちも同意しているように、「酒」(各種アルコール飲料)は「ハムル」の一つとして捉え、その酔わせる性質により、唯一神・アッラーを想うことから遠ざけ、礼拝の妨げになることから、非常にハラームと見なされています。
つまり、ビール・ワイン・日本酒・ラム酒などの「アルコール飲料」は「ハムル」にも当てはまり、100%ハラームなのです。例えば、ウィスキー入りのチョコレートのように、アルコール飲料で(その量がどんなに少なくても)調理・製造された食品や飲料の場合、自動的にハラームであり、ムスリムにとって摂取することが禁止されています。
では、「アルコール」はどういうものでしょうか?
アルコールは、炭素原子(C)に水酸基(-OH)が結合した有機化合物であり、メタノールやエタノール、プロパノール、ブタノールなど多くの種類があります。その中でもエタノール(酒精)は、食品、飲料、香水、医薬品などによく含まれるアルコールの種類です。
では、どのような場合にアルコールが許容されるのでしょうか。
「ハムル」・「アルコール」の見分け方
エタノールを例題として見ていきましょう。
エタノールはエチレンの水和(合成アルコール/工業用エタノール製造)と炭水化物由来の生物発酵という、大きく分けて2つのプロセスに分類することができます。発酵となると、「アルコール飲料」だけでなく、「発酵食品」を作るのにもこの方法が活用されます。
もし、エタノール(アルコール)が「アルコール飲料」(ハムル)の製造工程で作られた場合、そのエタノールは不純物であり、口にするのが禁止され、どのような場面でも使用できませんので、ご注意ください。
本来無色のエタノール(アルコール)を研究所で作った(合成的の方法)場合、医学的に人体に有害であるため、口にすることは禁止されています。しかし、そのエタノールを手に触れる分には純粋とされ(消毒用)、殺菌や体内の不純物の除去に使用してOKです。
アルコールの不浄(ナジス)状態は、酩酊物質であるというアルコールの一つの決定的特徴に依存している、ということを指しています。アルコール、あるいは他の酩酊飲料から取られた(抽出された)ものでなければ、アルコールだからといって自動的にそれが酩酊物質と見なされるわけではないことがわかります。例えば、タパイ※1(デザート)は、専門家によるとアルコールが含まれていても、酔わないので禁止されていません。
2005年ブルネイ政府ファトワー(イスラム教・法学に基づく裁断)(74-75ページ)
上記の裁断からすると、「アルコールはアルコール飲料に含まれていますが、すべてのアルコールがアルコール飲料に由来している訳ではない」ということを、頭においていただくと良いでしょう。
したがって、ムスリムにも使用可能なアルコールは何かというと、原則として:
・飲料の製造工程ではない方法で作られた
・医学的に人体に害のない
この2点に伴い、ムスリムが使用可能なアルコールの種類を下記の表にまとめました。
種類 | 製造方法 | 例 |
---|---|---|
農業用アルコール | 保存のため、炭水化物を原料とした生物学的自然発酵によって抽出されたもの | 醤油やタパイの発酵プロセスから作られたアルコール |
合成アルコール | エタノール、メタノール、プロパノール、ブタノールなどから化学合成されたもの | ケーキやクッキーなどの溶媒として使用されるアルコール、アルコール入り香水や消毒剤 |
上記の方法で作られたアルコールはいずれもOKですが、製品の種類や飲食品などによってはアルコール度数が0.1%以下、場合によっては0.5%まで、その使用が認められます。また、国によって、認められるアルコール度数の基準も少し異なる場合があります。
アルコール使用に対する一般ムスリムの視点
「アルコール飲料」を含む食飲物に関しては、それを飲んだり使ったりすることがイスラム教において罪であるため、ほぼすべてのムスリムは避けています。ですから、ムスリム観光客の中には、アルコール飲料を提供する飲食店などに、可能な限り行くのを避けようとする人もいます。
香水や化粧品などのアルコール性の商品について、明確なデータはありませんが、私が気づいたところでは、「ハムル」と「アルコール」を混同しているムスリムもかなり多いと思いますよ。
最初に述べたように、「アルコール」という言葉は「アルコール飲料」と似たような使われ方をするため、ムスリムを含め、多くの人が混同しています。アルコールフリー製品を見ても、”リカーフリー “よりも “アルコールフリー “や”ノンアルコール”と表記しているものが数多く目に付きます。
新型コロナウイルス感染症が発生した初期の頃は、アルコール性の除菌が必須となり、多くのムスリムが「アルコールフリー」のものを買おうとし、「アルコール性の除菌剤はムスリムが使ってもいいのか」と聞いている人もたくさんいました。
アルコール性除菌剤は感染拡大を抑える効果があることが明らかになっており、ノンアルコールの除菌剤を使っても、かえって感染リスクを高める可能性もあったはずです。
その後、イスラム政府機関やイスラム学者から、「アルコール除菌剤を使ってもOKですよ」のような発表がニュースやSNSで相次ぎました。
このように、ムスリムでもアルコールに関しては混乱することがあります。そこで、多くのムスリムは、商品の種類にもよるのですが、ハラール認証を受けたものでない限り、そういったアルコール性の商品を買うのを控える傾向にあるのではないかと思います。
こうした製品を作られている企業様で、特に海外イスラム市場での販売を視野に入れている場合、ハラール認証を取得することをお勧めします。
※1タパイ:東南アジア、特にオーストロネシア文化圏と東アジアの一部で見られる、米やその他のでんぷん質を発酵させた伝統的な食品。マレーシアやインドネシアでは、デザートに使われることが多い。
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